richard wagner homepage

 クナッパーツブッシュのこと 
back to essay index
back to home


クナについての疑問
  ハンス・クナッパーツブッシュは今世紀中葉のドイツ、ワーグナー演奏を代表する大指揮者。
私ごときが今更伝記的事実を書く必要は無いくらい有名な指揮者でしょう。

そのクナについて、様々なエピソードがたくさんの書物、文章で語られていますが、それでも解けない疑問が一つあります。
1953年、クナは病気を理由にバイロイト音楽祭を欠席しますが、さて、その本当の理由は何だったのでしょうか?・・・。
事情に詳しい方がいらっしゃったら、ぜひとも教えて頂きたいと思います。もう、15年来の疑問なんです。
クナを最初に聴くなら・・・
こんなHPを作っているわりには、私は非正規盤の至り海賊盤には冷淡です。海賊盤問題は別項レコードについてに譲りますが、クナの録音を、最初に聴くならどこから手をつければ良いか?という問いに、私としては以下のCDからつき合い始めることを勧めます。

1.Knappertsbusch conducts Wagner / DECCA 414 625-2
2.Wagner Tristan und Isolde ,Gotterdammerung / DECCA 452 896-2
3.「ワルキューレ」第1幕 / 日本LONDON POCL-9765(参照)
4.「パルジファル」 / 日本PHILIPS PHCP-24092/5(参照)
 以上です。

1はクナがDECCAで(ステレオ)制作したワーグナーものLP全5枚のハイライトと言えるものです。

2は、その5枚のうちの一つで、若きビルギット・ニルソンを伴奏したトリスタンとイゾルデの名アリア集にジークフリートのラインの旅と葬送行進曲を組み合わせたものです。
1と2は大半がダブるのですが、「ヴォータンの告別」が聴けるCDは1しか無いので仕方が無いのです。ダブる曲目については2のクラシカル・サウンドの復刻の方が遙かに優れた音質なので、これは涙を飲んで、両方そろえる必要があるのです。

3は日本規格しか発売が無く、DECCA 425 963-2は古いリマスタリングで、クラシカル・サウンドの素晴らしい復刻には及びませんので、日本盤を求めて下さい。
DECCAのクラシカル・サウンドのシリーズは素晴らしい復刻だったのですが、どうやらシリーズは完結したようで、非常に残念です。
上記「ヴォータンの告別」を含むジョージ・ロンドンのアリア集と、フラグスタートのヴェーゼンクドンク歌曲集&アリア集が、このシリーズで発売されるのを切望していたのですが・・・。

4についても日本盤のリマスタリングが優れています。だいたいハイ・ビット・サンプリングによるリマスター盤の音質改善というのは、ぜんぜん信じて無いのですが、これは良くなりました。演奏については、この62年盤と51年のTELDEC盤と、どちらを選ぶかと議論があるのですが、私はステレオ録音のPHILIPS盤を最初の一枚として聴いた後で、51年のCDに入ることをお勧めします。さらに加えて、一連のPHILIPSバイロイト録音シリーズの中で最高の録音は、このクナのパルジファルだと断言します!後の録音に比べてテープの残留ノイズこそ大きいですが、音そのものと、音場感は未だに最高のものです。(ベームのトリスタンとヴァルヴィゾの名歌手がこれに次ぐでしょうか)
それから、クナの演奏をもっと聴くなら・・・
今世紀中葉を代表する大指揮者クナッパーツブッシュの録音は上記の通り非常に少なく、巨匠のワーグナーを聴くためには、どうしても実況録音に手を伸ばさざるを得ません。その場合の順序を、私の乏しいなりに身銭を切り、涙を飲んだ経験から、お勧めしたいと思います。
 
1.パルジファル/ TELDEC 9031-76047-2/51年バイロイト実況録音(参照)

まずは正規盤から始めるのが順当でしょう、これは戦後再開の年に、DECCAのチームが録音したもので、他のバイロイト・モノ音源とは次元の異なる素晴らしい録音です。有名なケン・ウィルキンソンの録音で、ウィルキンソン録音を特徴付ける雄大な低音が、このモノラル音源でも聞こえて来ます。演奏は、多くのクナ・ファンがPHILIPS盤よりこちらを優先する理由が良くわかる、素晴らしく、重い演奏です。この重さは想いへと通じるでしょう、きっと・・・。わけても第1幕、場面転換の音楽!

クナ・ファンなら絶対備えるべき名盤ですが、しかしパルジファルを二つも持つ前に、もっと他の曲を聴きたいという欲求は理に適ったものと思います。そこで、クナのワーグナー、とにかく指環を聴いてみたいいうことなら、
 
2.ニーベルングの指環/ GOLDENMELODRAM GM1.001/14/56年バイロイト実況録音(参照)

このCDを選んで下さい。MELODRAMのLPでワルキューレと神々の黄昏が発売され、指環全曲は日本KINGからCDで発売されましたが、どちらも音質は劣悪です。GOLDENMELODRAMからCDで再発売されたときは、まったく期待して無かったのですが、新たに状態の良いテープを発見したのでしょう、前期諸盤とは次元の違う良い音でした。様々なレーベルから発売されている57年盤より音質は良好です。58年盤はMELODRAMのLPはいい音なのですが、HUNT/ARKADIAのCDはひどい音なので、努々手を出さないように!
演奏については、正直言って、私の貧しい鑑賞眼(耳?)では、どれがいいとか、どれでなくてはならないとか、断言できるほどの差異は、クナの指揮については言えません(強いて言えば、アンサンブルの精度は58年盤がベストかと思いますけど)。歌手の顔ぶれではジークフリートをヴィントガッセンが通して歌っている56年盤か58年盤が有利でしょう。57年盤ワルキューレではニルソンがジークリンデを歌っているという魅力がありますが、ジークムントのラモン・ヴィナイは53年クラウス盤では、あれほど素晴らしいのに、この57年盤では冴えません。
56年、57年ではグスタフ・ナイトリンガーのアルベリヒですが、58年ではフランス・アンダーセンに変わってしましまいます。ホッターのヴォータン、アストリッド・ヴァルナイのブリュンヒルデは共通です。というわけで、好みで選ぶしか無いのですけれど、56年盤のワルキューレで、ハプニングから急遽ジークムントを歌うことになったヴィントガッセンについては、もしも彼が存命だったなら、決して発売を許さないだろうという印象を受けました。ジョン・カルショウがDECCAでの彼の指環制作で、当初ヴィントガッセンを敬遠した理由の一つだった、リズムが先走るという悪弊が、見事に出てしまった演唱です。

3.ニュルンベルグのマイスタージンガー/ Orfeo C462 974L /55年プリンツレゲンテン劇場(参照)

掲示板でも話題になりましたが、最初に、何か一つだけ選ぶとしたら、このミュンヘンでの録音を勧めます。これはORFEOがバイエルン放送協会から取得したテープに基づく正規盤ですから、バイロイト録音の非正規盤より音質は良いですし、マイスタージンガーのオーケストレーションを聴くには、蓋のないこの劇場での録音にもメリットがあります。
演奏は52年バイロイト盤と、この演奏が双璧だと思います。オケのアンサンブルはバイロイトの方が優秀ですし、オットー・エーデルマンのザックスは素晴らしいものですが、歪みっぽい音質は聴き疲れするでしょう。ミュンヘンのオケはアンサンブルに乱れも多く、しょっちゅう、あっちこっちから(特に木管ソロ)おかしな音が聞こえますが、それでもクナの重く、うねるリズムに揺るぎはありません。エーデルマンのザックスはカラヤンの51年バイロイト実況盤で楽しむことにして、ここは55年盤を優先しましょう。

4.トリスタンとイゾルデ/ Orfeo C355 943D /50年プリンツレゲンテン劇場(参照)

5.さまよえるオランダ人/ GOLDENMELODRAM /55年バイロイト音楽祭(参照)

これらについては、これしか無いので自動的に決まりです。4のトリスタンは正規盤ですので、音質は、50年録音としてはフルトヴェングラーのスカラの指環が同じ年の録音ですが、それよりも優れた、聞き易いものです。

6.神々の黄昏/ Orfeo C356 944L/55年プリンツレゲンテン劇場(参照)

指環全曲はバイロイト盤を持てば十分と言いつつ、それでもこの演奏には独特の魅力があります。この演奏を選ぶ理由は、前記マイスタージンガーで述べたことが、そのままあてはまります。オケの問題点もしかり、あっちこっちで、ずっこけますが、それでも雄大な「流れ」の感覚は素晴らしいものです。重複しますが、正規音源のCD化ということ、プリンツレゲンテン劇場は明瞭な音質でメリットがあります。バイロイトは、確かにワーグナーが自分の作品の理想的な上演を求めて造った劇場ですが、その音響効果を確かめたうえで作曲したのはパルジファルだけだということを、思い出して頂きたいと思います。歌手は若きビルギット・ニルソンのブリュンヒルデが聴ける楽しみと、ゴットローブ・フリックの圧倒的なハーゲンが聴けます。個人的にはバイロイトのグラインドルより、ここでのフリックに魅力を感じます。

一連のバイロイトでの録音は、バイエルン放送協会にはテープが遺っているはずで、それが正規の契約に基づき発売された暁には、上記の評価は変わるかも知れません。なんとか発売していってもらいたいと、日々、切望しています。それまでは、あまり手を出さない方が賢明かも知れません。と、わかっていても止められないのがオタク心理というものですけど(^^;;